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Profile

KIM /シューズデザイナー

本名、金晶
1981年上海生まれ
2003年〜2006年スポーツメーカーに勤める
2006年スポーツシューズブランドMS SNEAKER設立
2008年KIM KIROIC設立
2009年6月〜2010年S/Sまで韓国のファッションデザイナーJUUN.JとのコラボKIROIC for JUUN.J発表
2010年6月パリのNOSEASON showroomと契約
2012年より表参道のTrading Museum Comme des Garconsにて販売
2013年 Vansとのコラボレーションシューズを発表

Interview [R:ROOT / K:KIM]

「靴の構造を覆すようなデザイン」 R: 張達さん(ROOT.12参照)から靴のデザインを専門に手がけているデザイナーがいると聞き、是非、お話を伺いたいと思っていました。靴のデザインは独学だそうですね。

K:はい、そうなんです。大学では、グラフィックデザインを専攻していました。大学卒業後、Reebokで商品管理などの仕事をしていましたので、その頃から、靴との関係ができたと言えますね。一年ちょっと働いて、その後、また別のスポーツメーカーで働きました。いろんな仕事をしましたね。内装工事もしましたし、マーケティングもしましたし。

R:2008年に今のブランドを設立されたそうですが、靴のデザインもその時からスタートさせたのでしょうか?

K:2006年に、スポーツシューズをデザインして作っていました。友人に売ったり、お店に置いてもらったりしていました。

R:その時デザインした靴と今デザインしている靴とでは、違いはありますか?

K:全然違いますね。その頃デザインした靴は、どちらかと言えば、ストリート系ですね。ナイキのような感じと言えばいいでしょうか。ただ、その時は、自分がデザインしたいものをただ形にしていただけで、マーケットのことなど全く理解していなかったですね。そのようなやり方で、2008年までに10点くらいの靴を作りました。でも、売れ行きもそれほど良くなかったし、経験も浅かったし、品質的にも決していいものではありませんでした。

R:当時は、上海で作っていたんですか?

K:その頃は、福建省で生活していました。福建には、靴、特にスポーツシューズの工場がたくさんあるので、靴に対して全くの素人だった私は、工場に行って、工場のスタッフが制作する過程を見ては「ああ、こうやって作っていくんだな」って学んでいったんです。過程を見て、初めて靴の構造が分かったり。2006年前に仕事で関わったのは、マーケティングなどの部分でしたので、靴そのものを理解していなかったんです。でも、自分ではすっかり靴のことを理解したと思っていたんですよね。(笑)

R:福建には、いつまでいらしたのですか?

K:2010年までいました。10人ほどが所属する工場と一緒に仕事をしていたのですが、スポーツシューズは、多くの工場の人間が関わることで形になると分かったんです。となると、大量の数を生産しなければならない。中国では、少量を生産してくれるような工場がないんですよね。一足のスポーツシューズを作るのに、多くの額を投じても、元がとれるような額は手元に戻らないんです。KIM KIROICをスタートさせた当初もスポーツシューズを出していましたが、続きませんでしたね。ブランドを立ち上げてすぐに作ったのは、靴の構造を覆すようなデザインを取り入れたものです。

R:実際制作してくれる工場の方たちは、そのようなデザインを見て、びっくりされていませんでしたか?

K:確かに、初めて見るデザインだったようですし、技術面で、これが果たして形になるのかなど、色々と問題はありましたね。ただ、形にするのが難しいということではなく、工場の人たちは「こんな靴、一体だれが履くんだ。」「こんな靴は売れない。売れない靴に時間を割きたくない。」となかなか理解してくれなかったんです。時間をかけて、彼らに理解をしてもらい、なんとか形にすることができました。ただ、それも、2010年まででした。やはり、工場側としては、数が多くて、デザインが簡単なものを求めていたんです。

R:2009年には、韓国のファッションデザイナーのファッションショーにKIMさんの靴が登場しますね。多くのメディアでも取り上げられ、話題にあがりました。

K:偶然、話がきたんです。ブランドを立ち上げて、初めてある展示会に参加したんです。その時、私のお客さんが私の靴をはいていたのを、フランスのファッション界の方が目にし、私に声をかけてくれたんです。何人かファッションデザイナーを紹介してくれ、ぜひコラボをしてみたらと。その中に、韓国のJUUN.Jもいたんです。2009年6月から2010年のS/Sまでコラボしました。

R:当時、中国のメディアは、KIMさんのことを「パリのメンズコレクションで初めて中国のデザイナーが発表」と紹介していましたね。

K:メディアは、話題作りのために言っただけですよね。実際は、私のブランドコレクションではないですからね。

R:なぜ、靴のデザインの道に進まれたのですか?

K:ひとつには、靴が好きだったということがありますね。ただ、今後は、メンズファッションのデザインもしてみたいなと思っています。ただ、服のデザインに対しては、全く経験がありませんから、時間はかかると思いますね。また、靴のデザインは、先ほども言ったとおり、大学卒業後に靴の会社で働いた経験がありますから、入りやすかった。靴は立体的なデザインですが、服となると、平面から立体へと変化するデザインと言えますね。そうなると、私にとって、難易度は高いんです。すでに、デザインは始めているんですけどね。時々、雑誌などから、靴を借りたいと依頼があるのですが、別の方がデザインした服に私の靴を合わせても、なんかしっくりしない時があるんです。それなら、自分が表現したものを、服でも表現してみようと思ったんです。

R:KIMさんの靴には、女性の靴もありますね。

K:例えば、これですね。(ipadで見せてくれる)これは、中国の清の時代に女性が履いていた靴からアイディアが生まれたんです。

R:見た感じ、重そうですよね。

K:実は、底の部分は発泡スチロールでできているので、とても軽いんですよ。

「まだまだ、面白いことができる」 R:福建から上海に戻られてからのお話を聞かせていただけますか?

K:上海に戻ってからは、スポーツシューズは作っていません。それまでスポーツシューズ一辺倒でしたので、ある意味、新たな挑戦でした。また、その頃から、手仕事で作られるものに興味を持ち始めたんです。例えば、刺繍の絵ですね。今、それらの作品を作っている人たちは、すでに50、60歳くらいになっていますが、彼らの作るものをなんとか自分の靴に取り込めないかと考えたんです。彼らがすごいのは、写真をそっくりそのまま刺繍で表現できるんです。彼らの技術には、本当に驚きました。私の靴とコラボする前から知っていたのですが、どのように靴に取り込んだらいいか、二年ほど考えていたんです。彼らの作る刺繍の絵の色の変化は、本当にすばらしいんです。それを出すには、長年の経験が必要なんですよね。手作業ですから、とにかく高価なんです。その高価なものを、いかに日々使用するものに取り入れたらいいか、悩んでいたんです。

R:彼らとコラボをするにあたり、ご自身にも何か変化はありましたか?

K:それまでは、見た目だけを重視したデザインをしていましたが、彼らと一緒に仕事をしてからは、別の要素も考えるようになりました。皆さん、高齢ですし、今後、若い人が彼らの後に続いて学んでくれるのか、若い人に受け入れられるか心配だと言っていました。私自身も、どうすればおしゃれで、若い人に受け入れられるようなものにできるか考えていましたね。

R:このシリーズを発表してから、お客さんの反応はいかがでしたか?

K:とにかく、たくさんの反響がありましたね。刺繍が靴になるなんて、と。ただ、高価なので、若い人からは「買えない」とか「日常では履けない」という声もありました。ですので、今後は、もっと日常で使用してもらえるような、例えば、鞄などに取り入れられないか検討中です。

R:今後も、何か伝統的なものとのコラボなど考えていますか?

K:今は特に考えていないのですが、このシリーズは続けていきたいと思っています。ただ、KIM KIROICは、ちょっと、お休みをしようと思っているんです。といいますのも、置いてくれているお店側は、大量に売れる靴を求めるんです。そうなると、私の思いとは距離が生まれてしまう。ですので、今後のブランドの方向性も含めて、色々整理する時間が欲しいと思っているんです。今、ちょうど、上海に小さな工場を持とうと思っているんです。手作業の技術に戻ってみたいと思っています。また、自分たちで染めた皮を使った靴が作れないかとも考えています。実は、色々アイディアはあるんです。ブランドの中に、いくつかラインをもうけて、運営していこうかと。例えば、刺繍のラインを作るとか、皮を取り入れたラインとか。というのも、お客さん側からしたら、デザイナーは一緒なのに、皮の靴もあれば、刺繍の靴もあるし、スポーツシューズもあるということで、よく分からないと。ですから、これからは、それぞれにラインをつくって、商業を重視したものはそのラインで進めるなどですね。

R:ということは、新たに会社を作るという感じでしょうか?その中に、いくつかのブランドを作ると。

K:そうです。今、ちょうど準備中です。もちろん、ブランドを立ち上げた当初のアイディアというのは残っているのですが、ただ、まだまだ、面白いことができるんじゃないかとも思っています。伝統的なものを取り入れるというアイディアとはまた別で。

R:ただ、KIMさんのように自分でブランドを立ち上げて活動しているデザイナーたちは色々と課題があるみたいですね。

K:そうですね。私たちクリエイターが抱えている悩みは、どれも似たようなものだとは思うのですが、例えば、組織を立ち上げるにあたり、どのように運営していけばいいのか、財務はどうすればいいのか、仕入れ先とどのようにつき合えばいいのか、売り上げを伸ばすためにはどうすればいいかなど、デザイン以外のことも学ばなければなりません。資金もそんなにありませんから、最初は、自分一人で動かなければいけませんしね。

R:そういった悩みは、今後解決できそうですか?

K:解決しても、また新たな悩みや問題が出てくるとは思います。前を向いている時は「なんでこんなにたくさんの困難があるんだ」と思ってしまいますが、自分が歩んできた道を振り返ってみると、意外な発見があるものです。「以前は無理だろうと思っていたことを、こんなにも解決してきたんだ」ってね。

R:先ほど見せていただいたサンダルのようなスポーツシューズのような靴ですが、何でも、古代ローマの戦士が履いていた靴からインスピレーションを受けたとのことですが。

K: 別に、ローマの戦士の靴からインスピレーションを受けたわけではないんです。スポーツシューズをより広く捉えたいと思ったんです。スポーツシューズのサンダルってないなって。おそらく、私が初めてこういうデザインを取り入れたと思うんですが、それも面白いなって思ったんですよね。

R:少し話題を変えて、靴に興味を持ち出したのは、いつ頃からなんですか?

K:中学の頃ですね。当時、NBAのジェームス・ジョーダンや「スラム・ダンク」が流行っていた時期ということもあって、彼らの履いていた靴に興味をもったんです。でも、高くて買ってもらえなかったんです。ですから、授業中に、スニーカーやスポーツシューズの絵を描いたりしていましたね。たまに、先生に取り上げられたりしましたけどね。(笑)

R:今でも、他人が履いている靴が気になったりしますか?

K:気になりますね。歩いているときでも、よく他人の靴に目がいってしまいます。中学の頃も、同級生が履いて来たスニーカーを羨ましく眺めていましたね。90年代のナイキのデザインはどれも格好良かったんですよ。人間の想像力をはるかに上回ったデザインと言いましょうか。

R:ご家族や親戚の中に、デザインやアート関係の仕事をされている方はいますか?

K:いませんね。母は医学関係の先生ですし、父は研究者です。寄生虫の研究をしています。ただ、父は昔から絵を描くのが好きでしたね。私も5歳ころから、絵を習いました。初めは、父から習っていたのですが、その後、学校に通いましたね。

R:大学は、広告関係、グラフィックデザインを専攻されましたよね。絵画を専攻したいとは思わなかったんですか?

K:幼い頃から絵画に親しんできましたので、絵画と関係がある別のジャンルに飛び込んでみたいと思ったんです。絵画のテクニックが生かせて、商業ともリンクしているジャンルでやってみたいと思ったんですよね。



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