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Interview [R:ROOT / L:雷磊]

「前へ進むにつれ、孤独感高まる」 R:雷さんの過去の作品に、お父さんとの共同作品がありますね。お父さんも何か芸術方面のお仕事をされていたんですか?

L:はい、父は大学でデザインを学び、卒業後、出版社で書籍デザインをしていました。ですから、父から、日本のデザイナーのことを教えてもらったりもしましたね。それに、父からは絵も習っていました。新作として、再度父との共同作品を考えています。今回は、祖父にも協力してもらい、中国の50年代の話をベースにしたアニメドキュメンタリーを制作しようと思っています。祖父の体調のこともありますので、なるべく早く完成させたいなと思っています。

R: 今回はなぜ、アニメドキュメンタリーなのでしょうか?

L:私たちの世代にとっての歴史というのは、学校で習うとか、国から与えられたリアルではないものでしかないんですよね。実際にその時代を生きた人間から聞くリアルな歴史には、なかなか接する機会がないんです。ですから、リアルな歴史に向き合ってみたいと思ったんです。

R:お話を伺って、中国で独立してアニメーション作家として活動するのは、そう簡単なことではないということが分かりました。おそらく、アニメの仕事だけでは生活できないと思うのですが……。

L:厳しいですね。ですので、企業から依頼されるデザインの仕事などを受けたりもしています。私自身、アニメーション作家としては、まだまだ確立されていないですし、勉強の段階でもあるんです。でも、どこかのギャラリーに所属して、美術家としてアニメを取り入れた作品を作りたいとは思いませんね。今後は、自分のアニメの原画をシルクスクリーンとして販売するなど、作品を別の形でアウトプットしていく方法も考えています。

R:作品のインスプレーションはどこから来るんでしょうか?

L:生活をしている中で、自然と入ってくると言ったらいいでしょうか。初期の作品は、ハッピーエンドで終わるものが多かったのですが、最近の作品では、荒唐無稽、かつ孤独という面を表現することが多くなりました。というのも、自分自身、前へ進むにつれ、孤独感というものが高まってくるんですよね。

R:雷さんの言う「孤独感」とはどういうものですか?

L:例えば、自分の悩みは、しょせん他人には解決できないとかね。私の幼なじみたちは、すでに自分の家を持っていて、安定したお給料をもらって生活しています。でも、私は不安定な生活を送っている。そう考えると、孤独だと思うときがありますね。ただ、そのような状態が悪いとは思っていません。今後、自分がどのようになっていくのか、なりたいのかまだ模索中ではありますが、ひとつ、ひとつ作品を作っていくだけですね。

R:長年北京で生活されている雷さんですが、北京の良さって何だと思いますか?

L:いろんな出来事が発生する面白い場所ということでしょうか。海外のフェスティバルに行って思うのは、フェスティバル以外のところでは、正直、北京以上に楽しめる場がないなと。

R:逆に、北京の悪い面は何でしょうか?

L:空気は汚いですよね。今、ダイエットのためにマラソンをしているのですが、あまり外を走りたいとは思いませんね。オランダに行った時、公園を走って気持ちよかったのを覚えています。

R: 上の世代との違いを感じることはありますか?

L:よく80年代生まれの世代はああだ、こうだと言われていますが、私は、実は上の世代とはそれほど大きな違いはないのではと思っています。あくまで、私個人の見解ですけど。中国人は、世代に関係なく義理人情に厚く、人間関係を非常に重視します。 家庭観というのも、昔と変わらないんだと思います。男性は結婚前に家を持っていないといけないとか、家族を大事にするとか、親の面倒をみるとかね。

「10年後の中国、無敵に」 R:作品に、そのような中国人的な要素は反映されていると思いますか?

L:意識はしていないですけど、自然と反映されるんだと思います。中国で生活して、中国の料理を食べているわけですから。それは、東洋的な要素と言えるかもしれないですけど、西洋的ではないと思います。でも、西洋のものにはどんどん触れたいと思っているので、できるだけヨーロッパやアメリカのフェスティバルには足を運ぶようにしています。ニューヨークにはぜひ行きたいと思っているんですよね。

R: 雷磊さんの作品には、宇宙や宇宙人のような人物が頻繁に登場しますが、それはなぜでしょうか?

L:昔見た夢の印象が残っているからだと思います。ある夢は、自分がベランダに立っていて、向い側に宇宙空間が広がり、星や惑星などが見えた。その映像が未だに残っていて、作品の中に取り入れているんです。あとは……描きやすいからという理由もありますね。(笑)とは言っても、それ以外の素材も作品に取り入れていますし、自分のスタイルというものは、まだ固定したくないですね。まだまだ、色んなことにチャレンジしたいです。

R:アニメーション作家としてだけでなく、ヒップホップグループのメンバーとしても活動していますよね。また、2011年に舞台作品《クジラ》ではヴィジュアルデザインを手がけるだけでなく、出演もしましたね。

L:そうですね。音楽、好きなんですよね。日本のヒップホップミュージシャンNujabesが一番好きですね。2011年に出演した作品の舞台も宇宙なんです。三公演あったのですが、いずれも満席で大盛況でした。三人の宇宙飛行士が、宇宙をさまようクジラを探すというストーリーです。作品のなかで、私のアニメーションをスクリーン上で流しました。

R:そういえば、クジラも雷さんの作品によく登場しますね。

L:はい。大きくて、美しくて、幻想的な感じがするんですよね、クジラって。クジラも、小さい頃に見た夢の中に出てきました。夢の中で見たものは、よく作品のテーマになりますね。

R:最後に、10年後の中国、どうなっていると思いますか?

L:10年後の中国ですか……想像できないですね。でも、きっと今以上に強力になっているでしょうね。例えば、中国版ハリウッドや中国版ディズニーランドができていたりね。それは、不可能ではないと思いますよ。また、中国版宮崎駿がいるかもしれない。不可能なことはないというほど、無敵になっているかもしれないですね。ただ、文化の中に、「中国らしさ」とか「中国」というものがなくなってしまい、フランスや日本と変わらないものばかりが溢れてしまうのは残念ですよね。ある意味、危機感すら感じてしまいます。中国は、一度自分たちの文化が途絶えた国ですから。何でもありの、ごった煮のようになってしまうかもしれないと考えると、ちょっとね……。中国の伝統文化には、学ぶべきことが多いと思っているので、ちゃんと残っていて欲しいですね。

(インタビュー:2012年8月)


雷磊に影響を与えた5つのあれこれ

[1]父親
[2]上海美術映画製作会社のアニメ
[3]80年代の中国と日本の書籍デザイン
[4]映画《ピンク・フロイド/ザ・ウォール》
[5]ジャズ・ラップ、ヒップホップ。中でも日本のミュージシャンNujabesの《battlecry》が好き



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