Profile
1978年江蘇省太倉市生まれ
2001年蘇州大学インテリアデザイン科卒業
2006年ロンドン、セントラル・セントマーティン・カレッジ・アーツ&デザインファッションデザイン研究室修士課程修了
大学在学中から、大学の同級生と共に上海にてブランドNeither Norを設立。また、上海市内にショップOne By Oneをオープンさせる
2006年ロンドン留学から帰国後、ブランドQiu Haoを設立
2008年ウールマークプライズにて最優秀賞受賞
2010年アメリカの経済誌《フォーブス》にて、中国ファッション界のトップ25の一人として紹介される
2011年WGSN(ファッション・ライフスタイルの最新情報とトレンド分析を提供する世界最大級のオンラインリサーチサービス)によるBreakthrough Designer Awardにノミネート
http://www.qiuhaoqiuhao.com
Interview [R:ROOT / Q:Qiu Hao]
「最もベイシックな技術を用いて」
R: 2008年7月のウールマークプライズの最優秀賞受賞後、多くのメディアが邱昊さんを取り上げていましたね。ウールマークプライズといえば、かつてカール・ラガーフィルドやイヴ・サン・ローラン、ジョルジオ・アルマーニなども受賞している国際賞でもあります。中国のデザイナーの受賞は初めてということもあり、国内外から注目を集めましたね。受賞作品は、中国の少数民族彝族(イ族)の服飾からインスピレーションを受けたと聞いています。
Q:「少数民族彝族(イ族)の服飾からインスピレーション」とは言っても、直接取り入れた訳ではないんです。これまで、編み物をしたことがなかったので、どう編んだらいいかも分かりませんでした。ですので、最も基本的な編み方で完成させました。私は常に、最もベイシックな技術を用いて自分が表現したいことを形にしたいと思っています。また、ビジュアル面でも、これまであまりなかったような服を作りたいんですよね。
R:ウールマークプライズを受賞されてから、注目を集めるようになり、デザイナーとしての重圧感を感じるようになったということはないですか?
Q:重圧感は、これまでもずっとあったと思います。ただ、中国のメディアは、他のメディアが取り上げているから取材するといった、衝動にかられて取材しているように感じるんですよね。ですから、聞かれる質問は、どれも同じですよ。ロンドンから帰国したばかりの頃は、興奮しながら取材に応じていましたが、回を重ねるごとに……嫌気がさしてきましたね。また、取材にきた記者たちにいえるのは、ファッションのことを全く分かっていないということです。無意味な質問を投げかけてくる記者も少なくないですね。
R:自分自身が中国人であるという意識は、デザインに反映されますか?
Q:反映されないですね。ただ、ここでいう意識とは、知らず知らずのうちに感化された「意識していない意識」と言えるかもしれないです。私が最終的に目指しているのは、中国が全面に見えるようなデザインではなく、中国が感じられるようなデザインです。シンガポールでファッションショーを開催した後、イギリスのあるメディアがショーで発表した35点の衣服と中国文化との関連性を分析していたんです。私自身考えてもみなかったことで、とても面白いなと思いましたね。私自身意識はしていなくても、中国文化は、私の身体に染み付いているのかもしれません。例えば、私のデザインする長い袖、それは、もしかしたら中国の伝統劇で着られる衣装の長い袖の影響かもしれません。ですから、中国的要素というのは、自然とデザインに反映されるのでしょうね。私自身、中国人がデザインしたと分かるような、 龍や鳳凰を取り入れたり、鮮やかな色彩を取り入れたデザインは嫌いですね。
R: 邱昊さんご自身、ファッションを意識し始めたのはいつですか?
Q:まず、私は基本的に計画性のない人間です。ですから、デザイナーになろうとかファッションを仕事にしようなどと計画していたわけではないんです。私にとって表現しやすい手法がファッション、服のデザインだっただけの話です。大学ではインテリアデザインを専攻していましたので、卒業後もその道に進むという選択もありましたが、空間をデザインするのは、私にとってあまりに壮大すぎた。それで、ファッションデザインの道を選択したんです。
R:ご自身のデザインには、どのような思いを込めていますか?
Q:時々、芸能人の衣装として服を借りたいという依頼があるのですが、私自身、自分のデザインする服は華やかな場にふさわしいとは思っていません。また、人に見せびらかすような服でもないですしね。着る人が、自分のための服として着てくれたらと思っています。服には、着る人間がどのような人間なのかを示す、社会的なアイコンのようなものを含んでいると思うんです。でも、私は、もっと自由であって欲しいと願っています。
R:大学にはファッションデザイン科もあったそうですが、それでもインテリアデザインを専攻されたのは何故ですか?
Q:まず、私の父がインテリアデザイナーなんです。幼い頃から、父の仕事を見てきましたし、中学生の頃から手伝いもしていました。大学受験の時、私自身将来の夢など特になく、父から言われるがままにインテリアデザイン科を受験したんです。父は、私が大学卒業した後、仕事を手伝って欲しいと思っていたようですけどね。父の望みはかなえていませんね。(笑)
R:初めて服のデザインをされたのは大学に入ってからですか?
Q:そうです。 大学二年の時にミシンを購入し、大学近くに部屋を借りて服作りを始めました。また、ファッションデザイン科の学生とも交流がありました。ファッションデザイン科から転入も薦められたのですが……、ファッションデザイン科の教授たちに魅力を感じなかったので転入しませんでした。大学には、それほど期待をしていませんでしたし。
R:服のデザインは独学とのことですが、インテリアデザインと何か大きな違いはありますか?それほど苦労せずに、服のデザインに入れたのでしょうか?
Q:もちろん、基礎の部分や技術面での違いはあるのでしょうが、インテリアでも服でも、自分の好きなテイストというのは一貫していますので、とてもすんなり入れました。また、父の手伝いとしてインテリアのデザイン画などを手がけていましたので、授業で習う基礎の部分には苦労しませんでした。ただ、服は人間のためにデザインし、インテリアは空間のためにデザインをします。私にとって、空間のためのデザインは非常に大きく感じてしまったんですね。また、私はあれこれオーガナイズするのが得意な人間ではないんです。ですから、当時、自分で生地を購入し、裁断して縫い合わせていくことは非常にやりやすかった。コントロールしやすいですしね。私は、自分自身でコントロールするのが好きな人間なんですよ。(笑)
R:現在 邱昊さんは、ご自身の名前を用いたブランドQiu Haoをてがけていらっしゃいますが、大学在学中から同級生と一緒に店舗を構え、ブランドも立ち上げていらしたんですよね。
Q:在学中に同級生と立ち上げたブランド Neither Norは当初、デパートで販売していたのですが、実は、デパート側は私たちがデザインした服をなかなか受け入れてくれなかったのです。また、私たちに好きにディスプレイさせてくれなかった。それなら、自分たちで店舗を持って販売しようということになったんです。現在、 Neither Norは同級生だったパートナーが引き続き運営しています。
「常に思考を巡らせる」
R:大学卒業後にロンドンに経たれたわけですが、ロンドンでファッションの勉強をしようと思われたのは何故ですか?
Q:大学在学中に独学でデザインした服が評価されました。ただ、それだけでは満足できず、自分を試してみたいと思ったんです。セントラル・セントマーティン・カレッジ・アーツ&デザインという学校は、自分にとって夢のような学校ではあったのですが、軽い気持ちで入学を考えたんです。周囲からは、「ファッションを学んだことがないのに」とか「中国人だから無理だよ」なんて言われましたけどね。でも、自分のレベルを試してみたかった。果たして、私を受け入れてくれるだろうかと。合格通知を受け取ってはじめて、ロンドンで勉強するんだって実感がわいてきました。
R: ロンドンで勉強してからと中国にいた頃とでは、ファッションや服に対する考え方に変化が出たのではと思いますが、いかがですか?
Q:中国にいた頃は、自分がデザインしたいままにデザインし、制作したいままに制作していました。でも、ロンドンで勉強を進めていくにつれ、どのように展開していくべきなのか、一つのシリーズの中にどのような要素を取り入れるべきなのか、自分のスタイルとは何なのかなど自問自答するようになりました。自分の好きなスタイルとは?私が形にできる服とは?今後、作れる服とは?など。どの手法が良い悪いではなく、常に思考を巡らせる必要があるんですよね。
R:当時、初めての海外だったのですか?
Q:そうです。初めて中国を離れ、2年間、ロンドンで生活しました。ロンドンで目にしたもの全てがすばらしくて、自分は未熟だなって思いましたね。また、東洋と西洋とでは、生活スタイルなど全てに違いがありますね。ロンドンに降り立った時は、希望に満ちあふれ、わくわくしていました。
R:英語は中国にいた頃から話せたんですか?専門分野を勉強するには、語学は非常に重要だと思うのですが。
Q:中国でも多少は勉強していましたが、ロンドンに行ってから集中的に勉強しました。間違いを恐れず、積極的に話しかけていたので、早く身に付いたのかもしれないですね。
R:なんでも、アレキサンダー・マックイーンの下でお手伝いもされたそうですね。
Q:そうです。インターンとして働きました。ただ……、皆、下劣でしたね。いかに下劣でいられるかを学んだとも言えるかもしれません。(笑)関係者に聞いた話ですが、イギリスのデザイン界だけがクレイジーすぎるのだそうです。
R:2年間のロンドンで留学では、色々と学ばれたことと思いますが、これまで、ファッションから離れようと思われたことはなかったですか?
Q:私は、計画性をもって行動する人間ではないので、これまで一歩、一歩前進してきました。気がついたら、今の仕事をしていたという感じなんです。ですから、辞めようとか、離れようと思ったことは一度もないですね。
R:そのままロンドンで仕事をしようとは思わなかったですか?
Q:考えたこともありましたが、やはり現実を考えると、海外で自分のアトリエを構えて仕事をするには、費用面で厳しいだろうと思ったんです。中国で同じ金額を出せば、より多くのことができます。また、海外で活動するデザイナーの友人が言っていたのですが、とにかく生活がきつきつだと。また、思い通りにはなかなか活動できないと。中国に戻ればよかったと後悔していたんです。確かに、今、世界中の目が中国に向いていますし、チャンスもたくさん転がっています。そんな中、中国には、新たなデザイナーが必要だとも思ったんですよね。
R:上海は中国で一番のファッション都市といえますか?
Q:まず、昔から上海人はおしゃれが好きだったんです。上海の部屋は、他の大都市の部屋と比較してもこじんまりとしています。ですから、家や部屋にお金をかけず、自分の身なりにお金をかけるんです。ここ数年、海外のブランドや企業が上海に進出し、ますます国際化しています。ですから、ファッションが強い都市といえるかもしれませんね。ただ、上海で開催されるファッションウィークはまだまだですね。国際レベルには達していないです。お誘いをいただくのですが、毎回お断りしています。
R:ブランドQiu Haoで使用されている素材のことを伺いたいのですが、何かこだわりはお持ちですか?
Q:まず、簡単に手に入り、しかも私のデザインがうまく表現できる素材を選びます。しかし、中国では、なかなか少量を販売してくれないという問題もあります。また、いくらいい素材を使用しても、私のように少量しか制作しない場合、工場の人間はなかなか理解してくれないんです。一体、その服にどれだけの価値があるのかって。ですから、工場の人にお願いするのではなく、数人のスタッフに制作してもらっています。
Next