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陳曼 Chen Man/フォトグラファー

1980年北京生まれ
中央美術学院付属高校卒業
中央戯劇学院舞台美術科一年で退学
中央美術学院撮影科卒業
2003〜2004年、2006年雑誌「VISION」の専属カバーフォトグラファーを務める
2008年より林東田スタイリストと契約を結ぶ
2008年1月パリにて個展
2008年9月北京のBlock8にて個展
2011年北京の今日美術館にて大規模個展
2012年東京のDIESEL ART GALLERYにて日本初個展
コマーシャルフォト、ファッション誌などで第一線で活躍するフォトグラファーとして国内外のメディア、関係者から注目を集める。

http://www.chenmaner.com/

「人間が好き。人間に関する全てのことに興味がある」 R:まず初めに、陳曼さんの肩書きについて伺いたいのですが、多くのメディアが「ファッションフォトグラファー」として紹介をしていますね。ROOTでも「ファッションフォトグラファー」と紹介するのが適しているのでしょうか?

C:(笑)「フォトグラファー」でいいですよ。確かに、私はファッションフォトを撮ることが多いですから、皆、そのように紹介するんですよね。

R:ご自身は「ファッション」をどのように捉えていますか?

C:ファッションは、私にとっては仕事でもあります。ただ、とても個人的なものだとも思っています。そう簡単に一括りにすべきではないと思うんです。自分に合わないのに流行っているからとそのモノを取り入れるのではなく、人それぞれファッションに対する要求があるはずなんです。うわべだけの一括された「ファッション」は、ただ大衆の興味を安易に引きつけようとするモノでしかないのではないでしょうか。

R:陳曼さんの写真といえば、まず代表的なのが雑誌『VISION』のカバーフォトです。このお仕事は、大学卒業後に始めたんですか?

C:いいえ。大学3年の時から『VISION』の仕事はしていました。大学では、初め絵画の勉強をしていたのですが、途中から第一期生として写真科を専攻したんです。

R:聞くところによると、2歳から絵の勉強を始めたそうですね。

C:北京にある「少年宮」という、子供を対象に絵画や歌、踊り、武道などを指導する学校に通ったんです。私たちの世代は一人っ子政策の下で生まれました。私たちの親は、自分が子供時代に叶えられなかった夢を自分の子供に託
したいという思いが強いんです。ですので、私も母の薦めで通っていました。絵画だけでなく、ピアノ、ダンスなど、少年宮の全ての課を受講したと思います。特に絵のできが良かったので、その後、中央美術学院付属高校に入学しました。

R:ご自身は絵を描くことは好きだったんですか?

C:嫌いではなかったんですが……、なんと言えばいいでしょうか、当時はインターネットが発達していたわけでもありませんし外の世界を知らなかったので、親の言うままに過ごしていたというのが本当のところですね。

R:陳曼さんは1980年生まれですが、80年代、中国では日本のアニメや漫画が非常に流行っていたと聞きます。陳曼さんもよくご覧になっていたんですか?

C:学校から帰ると、テレビでは日本のアニメ、例えば「一休さん」や「花の子ルンルン」などが放送されていましたね。また、私の周りでは、日本の漫画を読んでいる人が多かったです。授業中に読んだりね。(笑)当時の日本の有名な漫画は全て入ってきていましたよ。

R:お父さんが広告のイラストを描いていたそうですね。お父さんの影響は受けましたか?

C:受けていたと思いますよ。父は多数の受賞歴があり、当時、その世界では名の知れた人だったんですが、私が幼い頃に転職し、安定した職業についたんです。イラストは、父が特別やりたい仕事ではなかったようです。

R:長い間、絵画の勉強をされたようですが、今は写真の世界にいらっしゃいます。何故、写真、フォトグラファーの道を選ばれたのでしょうか?

C:私が学んできた伝統絵画は、ある程度実力がつくと勉強し続ける意味がなくなるのです。先生たちも、それ以上何を指導したらいいのかと。ずっと絵画一辺倒でしたので、何か新たに学びたいなと思ったんです。それに、私は「人間」が好きなんですよね。人間に関する全てのことに興味がある。それで、写真科を選択したんです。

R:確かに、陳曼さんの被写体は人間ですね。何故、人間が好きなのですか?

C:子供の頃から、人間観察が好きだったんです。絵画の被写体も全て人間でしたね。人間に対して、特別な興味があったんですね。例えば、テレビを見ますよね。チャンネルを変えます。変える前にテレビに映っていた人物の容姿をはっきりと覚えているんです。その人物を絵に描くこともできる。また、さらにその人物に少し手を加えることで、その人の良さがより出てくるんじゃないかと。気性かもしれないですね。

R:実際の撮影でも、被写体の良さを引き出すために陳曼さんから積極的にポーズを指示したり、あれこれ指導されるんですか?

C:自分からポーズを取る人もいれば、ポーズが全く取れない人もいます。その時々によって臨機応援に対応しています。

R:撮影に使われる小道具などは陳曼さんが選ばれるのですか?例えば、ある広告では、モデルが70年代、80年代に中国で使われていたラジカセを持っています。そのラジカセのアイディアも陳曼さんですか?

C:ええ、私が提案しました。私は、子供時代からこれまで経験したことと、また、その経験と関係のある要素を取り入れるのが好きなんです。外国人がよく使うようなチャイナテイストと言うのはあまり好きではありません。自身の成長過程で得たチャイナテイストを取り入れます。

R:今、陳曼さんのおっしゃった「外国人がよく使うようなチャイナテイスト」、例えばどのようなものですか?

C:例えば、チャイナドレスなど、見るからに中国的なものですね。ただ、私もチャイナドレスを取り入れて撮影をしたことはありますが、外国人の表現手法とは全く違う手段で表現しました。 「一歩一歩、前進しながら築き上げてきた」 R:撮影される時、自分自身が中国人であるという意識はもたれていますか?また、作品には中国人という意識は反映されるでしょうか?

C:ないですね。私は、国をそれほど意識しない人間です。今は、インターネットを通じて人種や国を超えて交流が持てます。昔は交流の場もなく、互いに理解することもなく、隔たりがありました。社会主義、資本主義とか、黒人、白人とか、中国人、外国人などと分ける傾向にありましたが、インターネットの発達により、通じ合うようになり、国家や民族や人種という概念は次第に薄れてきています。

R:撮影の際、とくに重視しているのはどのような点ですか?

C:自分が表現したいことを形にすることですね。私のいう「自分が表現したいこと」というのは、表現者が生まれてからこれまでに経験したことやそれらの経験から生まれた思想と関係があります。ある日、他人の作品を見て「いいな」と思っても、それは他人の経験から生まれた思想が表現されたもの。海外のカメラマンや巨匠の作品を模倣してしまったら、自分らしさがなくなってしまいます。

R:陳曼さんは独自の美学をお持ちですか?

C:今お話したことと重複するとは思うのですが、私にとっての美学というのも、自身の成長過程における経験、出会った人や物事と非常に関係があるんです。友人だったり、食べることだったり、水を飲むことだったり。それらの生活における些細なことから感じた、私の感情を外に向けて表現する、それが私にとっての美学です。人それぞれ自分なりの美学はあるのでしょうが、腕がいまいちだったり、修練不足で表現したいものが出しきれていないという人もいる。でも、私は、長年修練を積んできましたし、また、独自の美学を取り入れて表現しているので、他の表現者とは違うと思いますね。それは、作品を見ればはっきり分かると思います。

R:中央美術学院で学ぶ前、中央戯劇学院の舞台美術科を一年で退学しています。以前、あるインタビューで「中央戯劇学院は自由がないから退学した」と答えていましたね。

C:当時、自分のやりたいことが十分に発揮できなかったからです。そのことは、特に若者にとって非常につらいことで、自分のやりたいことをやらせてもらえないと、ただ無駄な時間を過ごすだけなんです。また、私は人間と関係のあることを学びたかった。舞台美術では、人間と関係のあることは学べなかったんです。

R:その後、中央美術学院の写真科に入学されますが、大学の環境はいかがでしたか?カメラや写真のことを勉強するにはいい環境でしたか?

C:海外の大学と変わらないと思うのですが、非常に自由で、受講してもしなくてもよかったんです。とにかく自由でしたね。

R:陳曼さんは、学生の頃から雑誌のカバーフォトを担当したり、また、卒業後もフォトグラファーとして活躍されています。現在、中国のフォトグラファーとして最も注目をあつめ、各業界からの依頼が絶えないと思うのですが、フォトグラファーとして仕事をスタートさせた当初、将来への不安や辞めて別の職業に就こうなどという考えはなかったですか?

C:なかったですね。私は、一歩一歩前進しながらここまで築き上げてきましたから。辞めようとかお金にならないのではないかという考えは全くありませんでした。毎日、やるべきことが多くて、それらを一つ一つ片付けてきました。また、私は計画を立てたり、将来のことを考える人間ではないので。

R:フォトグラファーとして活動を始めた当初は、撮影や写真の修正など全てお一人で作業されていたそうですが、今はお仕事の依頼も増え、陳曼さんの下で働くスタッフが多数いますよね。

C:ええ。私にとって、今のスタッフは非常に重要な存在です。依頼のある仕事の大半がコマーシャルフォトですので、私一人では処理しきれないんです。また、スタッフと共に作業をすることで、私だけでなく彼らにも収入が入る。そして、全ていい状態になると場の向上にもつながりますし、また各自、自分自身を向上させようとしますしね。

R:実際、スタッフとはどのように作業を進めているんですか?

C:コマーシャルフォトの場合は、依頼者の要求にそって作業を進めるので一番簡単なんです。依頼者の要望通りに修正し、作成していけばいい。一方、創造性の強い写真の場合は、皆で相談しながら作業を進めます。そして、彼らが修正したものに私が手を加えるなどです。

R:最終的には、全て陳曼さんが手を入れるのですか?

C:ええ、そうです。最終チェックは、全て私が行っています。



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